エリート弁護士は、溢れる庇護欲で年下彼女を囲い込む
矢城は前方を見据えたまま、フッと笑った。
前髪を掻き上げると、淡白な口調で説明する。

「求婚したんだよ。できれば早めに入籍してほしい。俺と将来を共にする希望が詩織ちゃんにあるのなら、の話だが。意思確認というところかな。無理強いはしない。今回のことで思うところがあってさ――」

詩織が長々と聴取されている間、矢城は数人の警察官から、あなたは帰っていいと声をかけられたそうだ。
詩織との関係性を問われ、雇い主と従業員だと答えたためであろうか。
いわば赤の他人で、今回の事件の関係者としての扱いは思ったより薄かった。

たとえ恋人だと説明していても、他人には違いなく、結果は同じだろう。
それに虚しさのようなものを感じ、詩織と婚姻関係にあれば、家族としてもう少し関わらせてもらえたのではないかと矢城は思ったそうだ。

知人の刑事に電話して協力を仰いだ時も、最初は深刻に捉えてもらえなかった。
『矢城くんが厳しくして仕事を辞めたくなったんじゃないの? きっと退職覚悟で実家に逃げ帰ったんだよ』と笑われたのだ。

詩織はそんな無責任なことはしないと説明するのに時間を要し、いらついた。
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