エリート弁護士は、溢れる庇護欲で年下彼女を囲い込む
雑誌記者たちは分が悪いと思ったのか、「すみません」と謝って、それぞれバラバラに走り去っていった。

湿っぽい路地に、詩織と弁護士の彼が残される。
救世主の如き彼に呆然としていた詩織だが、視線が合うとハッと我に返り、顔をうつむけた。

「あ、ありがとうございました……」

小声でお礼を述べたら、彼が横にしゃがんだ。
顔を覗き込まれたため、助けてくれた彼にも恐怖を感じてしまう。

(私が誰なのか、確かめようとしてる? 浅木清良だと知ったら、この人もきっと、私を非難する……)

けれども、「顔色が悪いな」と心配されただけであった。

「タクシーを呼ぶから、それに乗って帰りなよ」

立ち上がった彼は、ポケットから取り出したスマホで、電話をかけようとしている。
詩織は慌てて立ち上がり、それを止めた。

「タクシーには乗れません。お金がなくて……帰る家も、ないんです……」

目を瞬かせた彼に、「家出?」と心配される。

「違います。私は……」

言葉にして説明するのは、傷口に塩を塗るようなもの。
それよりはまだ痛みが少ないかと思い、詩織は震える手で、帽子と眼鏡、マスクを外した。

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