悪役令嬢は執事見習いに宣戦布告される
 食事タイムをなんとか乗り切ったイザベルは時計の針を確認し、二人がけのソファから腰を浮かす。今は食後のまったりタイムだ。

「わたくしは予習がありますので、お先に失礼しますわ」

 今日はレオンへの差し入れも必要ない。だから急ぐ必要はないのだが、ジークフリートの横にいると、心拍数が無駄に跳ね上がるのだ。
 はっきり言って、心臓に悪い。
 フローリアとのイベントのせいだろうか。ここ最近、彼の色気が増している気がする。
 ジークフリートは読んでいた論文から顔を上げ、イザベルをじっと見つめた。

「今週も週末は忙しいのか?」
「……えっと。その、いろいろとありまして……」
「いろいろ? 二人ではできないことか?」

 珍しく突っ込んで質問をされ、イザベルはたじろぐ。だが、ここで不審に思われては今までの嘘がすべてバレる。
 瞬きとともに気持ちを切り替え、あらかじめ考えておいた理由を口にする。

「自分磨きをしているんです。ですから、当面は会えません」
「ふむ。一体、いつなら会えるんだ?」

 まずい。そこまでの問答は想定していない。
 困った末にサロンを見渡すと、遠目からでも目を引く金髪が視界に入る。先輩のお姉さま以外にも質問攻めにされているのか、困っているレオンを見て、つぶやくように言った。

「……舞踏会が終わるまで……?」

 疑問形で返すと、ジークフリートは諦めたように目線を下げた。

「そうか。ならば、無理強いするわけにもいかないな」
「ご理解いただけて何よりですわ」

 そそくさとサロンを退室しようとすると、これ幸いとレオンが後ろに続く。

「教室に戻るなら俺も行く」
「……わかりました」

 明らかに逃げてきたとわかる焦った顔に苦笑いし、二人並んで教室を目指した。
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