都合のいい女になるはずが溺愛されてます
この恋は矛盾している。
いつか見放されることを踏まえてわずかな希望にすがりつこうとしている。

だから佐久間に密着されても嫌な気になれない。


「仁奈、怒った?」

「怒ってないです」

「じゃあ泣きそう?」

「泣きたいのはさっき佐久間さんに振られた子だと思いますけど」


そう言ったら「そうだね」と感情のこもっていない返事をされた。


「佐久間さん、離してください」

「やだ、今離したら戻ってこない気がする」

「戻ってこないって私が?」

「うん、なんか怖いから一緒の布団で寝たい」


電話の相手のことはもう微塵も考えてないのに、私の変化に敏感なのは意味が分からない。
なんで佐久間が不安になるの?


「もう寝る?」

「まだ、寝ないです」


吐息混じりに囁かれて頬に手を添えられる。
少し視線を上に移すと、その瞬間についばむようなキスをされた。
じっと私の目を見て、抵抗する素振りがないと分かると両手で頬を包み込むように支えて深い口づけを求めてくる。

それに応じてしまったのは、嫌うことができないほど佐久間に溺れているから。
実感すれば悲しいはずなのに、佐久間に求められいる自覚のせいで感覚が麻痺している。

愛されている錯覚に陥るのも案外悪くないかもしれない──と全身で応じるように抱きついた。
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