惡ガキノ蕾
~in 魔法の絨毯~
──午後7時45分。
みゆママに選んで貰ったドレスに身を包んだあたしと優は、店で働く女の人達の前で、口紅よりも赤い顔して自己紹介中だった。転校生とはこんな気分なのだろうか。挨拶も済んで、頻り《しきり》にミニスカ―トの裾を気にする優の横で手持ち無沙汰にしていると、みゆママと眼が合って、その眼で呼ばれた。
「大丈夫?はなみ」
「大丈夫。ごめんね、無理言っちゃって」
「何言ってんの、そんな事は気にしなくていいんだよ。でも、本当に大丈夫なのかい?何かあったらあたし、きむ爺と一樹に会わせる顔が無いんだからね」
「いや、そんな事…、我が儘言ってんのはあたし達の方だし」
「無理はすんじゃないよ、いいね」
「うん。ありがとう」
ウインクで答えたみゆママが、「さあ、今日も稼ぐわよ」と威勢のいい声を揚げる。その声に応えるように、店の彼方此方《あちらこちら》から音《E・D・M》が響き出した。
8時の開店とほぼ同時にお客さんが入って来る。10分と空けずに又一組。あたしと優、アマチュア二人を残して、みゆを含めた六人は、それぞれが勝手にテキパキと捌け《はけ》ていく。そこからの一時間、あたしと優は氷を運んだり、おしぼりを持っていったりと、只管《ひたすら》、雑用全般を引き受けて、なんとか間を持たせたのだった。
9時を15分程過ぎた頃、入口に数人の男達が姿を見せた。その内のひとり、みゆママが席を立って相手をしている男の腰には、あのウォレットチェ―ン。その場を離れたみゆママが、他のお客さんの相手をしているみゆの耳元に顔を近付けて、二言三言囁いた。
頷いたみゆが、一番奥のボックス席に塚本達を案内して行く。
グラスを洗う手を止めて、優があたしに顔を向ける。あたしも目を合わせて軽く頷いた。──出番だ。蹲んで《しゃがんで》化粧を直し始めた優を置いて、あたしはトイレに足を向ける。化粧台の前、鏡に映った自分を相手に二度三度と深呼吸していると、ドアの外にみゆママの声がした。
「はなみ、どう?行ける?」
「大丈夫」答えて、ドアを開く。「行って来る」
みゆママが黙ったまま、片方の眉を上げて答えを返した。
あたしがテ―ブルに着くと、既に塚本と指輪野郎の間に座った優が、寛《くつろ》いだ様子で煙草を吹かしていた。いざとなれば流石に双葉のツレである。肝が座っていらっしゃいます。男達は皆一様に、身に付けている物はそれなりにお金が掛かっていそうだけど、どこかチグハグな感じのする似たよな雰囲気の六人だった。
塚本を優と挟むように座る。
──さて、先ず《まず》は何から話そう。
……あれ、え―と…。何か話さなきゃと思う気持ちと裏腹に、何に対する緊張感なのか、上手いこと言葉が出て来ない。どうしたんだろ、あたし。焦るな、落ち着いてなどと自分に言い聞かせては見るものの、会話の切っ掛けさえも掴めないまま、只、時間だけが過ぎて行く。……どうしよ…どうする?
塚本の向こう側では、優がもう指輪野郎にタブレットの画面を向けていた。
「何人《なにじん》?」
「?」掛けられた言葉の意味が分からなくて、無言で隣に座る塚本の顔を見詰め返す。
「何人《なにじん》?……って、あ―これも通じねえのか」
……、……、……、「あ」──理解した。
そりゃそ―だ。席に着いて約10分、一言も話さずにチャイナドレスを着て座ってる女が居たら、誰でも聞いてみたくなる。其処《そこ》で出たのが「何人《なにじん》?」
「…日本人です」
店の中が薄暗くて助かった。明るかったら恥ずかし過ぎて顔上げてらんなかったわ。
「何だよ、日本人かよ。だったら早く何か喋れって。超―気まずかったつ―の」
塚本はそう言って笑いながら、今度は足の先から視線を上げて来て、あたしの顔を覗き込んだ。
するとそのまま、これと言って表情も変えずにグラスに手を伸ばす。
──あれっ?気が付かないのかな?
口から離したグラスを、多分作れって事なんだろうけど、黙ってあたしの方に押し出してくる塚本。お前も何か喋れつ―の。
でも、何であたしに気が付かないんだろう?まさかの別人?ウォレットチェ―ンも、もしかしたらあたしの見間違い?
受け取ったグラスに氷を入れながら、忙し《せわし》なく考えを巡らす。
──とここで、本日二回目の「あ」。作った飲み物を塚本に押し付けるように渡してから、「ちょっと失礼します」と断って、あたしは席を立った。
早足でトイレに向かう。ドアを閉めると、鏡の中から此方《こっち》を睨むブサイクに口には出さず毒づいた。バカ!バカ!顔を見せて反応を見ようってのに、こんな厚化粧してたら意味無いじゃん。只《ただ》でさえ化粧する度、どちら様ですか?ってからかわれてんのに…。バカ、本当にバカなのかお前。雑に化粧を落として顔を洗うと、うちの店に出る時と同じ様に眉だけ描いて、テ―ブルに戻った。これであの日、堤防で打つかった時のあたしになった筈。
塚本が煙草を咥えるタイミングでライタ―に火を点ける。「サンキュ―」と煙草の先をライタ―に近付けながら、序で《ついで》にと言った感じで、横目であたしを盗み見る。
「!」。やばっ、笑いそう。だってコントみたいな二度見。吹き出しそうになるのを必死で堪えて、顔を固めるあたし。その顔のまま聞いてみた。
「どうかしました?」
「いや…別に…」と答えてから、遠くを見る様に塚本が目を細める。見た事あるような気はするけど、何処《どこ》で見たのかまでは思い出せないって、そんな感じか?よし、んじゃ次は…と考えてたら、突然、優の横で喚声が上がった。
「ふざけんなっ!何だよこれ!」
大声の出どころは指輪野郎。血走った目が、優の持つタブレットの画面に釘付けになっている。──ビンゴ!
反対側からタブレットを覗き込んだ塚本が、口と目を一杯に開いて動きを止めた。
数秒置いて、電気で痺れたみたいにビクッと体を震わせると、スロ―モ―ションみたいにゆっくりとした動作で振り返って、まじゝとあたしを見詰めてくる。その顔には、もう答えが出ていた。──こっちもビンゴ!
後はもう、塚本に話が有るから公園で待っていると伝えれば、あたしの店での役目は終わりだ。顔を向けた優にひとつ頷くと、席を立った塚本の後に続いて、トイレへと向かう。ドアの前、あたしはおしぼり片手に、出て来る塚本を待った。──ドアを開けた塚本が、お化けでも見たよな顔して奇妙な声を上げる。ほぼ素っぴんだしねって…おい!ちょっと驚き過ぎだろ。内心の憤り《いきどおり》を押さえて、あたしは予め《あらかじめ》用意しておいた台詞《セリフ》を口にした。
「あたしの事覚えてる?…もし覚えてたらちょっと話が有るから、このあと菖蒲沼公園に来て欲しいんだけど」
「あん、な、なに言ってんだ…お前の事なんて知らね―よ」
うわっ、むかつく。双葉には公園で待ってるって事だけ話せって言われたけど、この期に及んでまだ惚ける《とぼける》って…。男らしく無いのにも程があるし、野暮ったいったらありゃしない。
なんだか無性に腹立って来た。
「あたしは覚えてる!四件目の火事があった夜、堤防の上で打つかった事。そのウォレットチェ―ン、あの時も付けてたでしょ。一緒に居たもう一人の顔だって、あたしちゃんと覚えてるんだから!」
はったり八分《はちぶ》…でもなんか、我慢出来なかった。
あたしの言葉を受けて顔を歪めた塚本が、おなかでも痛くしたみたいに躰を曲げる。暫く《しばらく》俯いた《うつむいた》ままで口も利《き》かない。自分が放った言葉の与えたダメ―ジを量りかねて、あたしも次に繋げる言葉を選べないでいる。
「……った」えっ?何?「分かった。公園には行く。…だけど、もう少しだけ待ってくれ。遅れて来る仲間が居て、もう一時間位したら来ると思うから…。それからでもいいだろ?」
双葉にはメ―ルするとして、最初は店が終わる迄待つ事も覚悟してたんだから、一時間位なら問題は無い筈だと、あたしは勝手に見当を付けた。
「分かった。じゃあ、あたし達もここで待つ」
テ―ブルに戻った塚本はすっかり落ち着きを無くして、忙しくスマホを擦り《こすり》始めた。何度も擦ってる内に、スマホの中からこのピンチを救ってくれる魔神でも出て来んなら、是非あたしにもその機種教えて欲しい処だけど。ま、こんだけ焦ってりゃ、公園に行かなくても、俺が犯人ですって認めてるようなもんだけどね。
優の横で指輪野郎も、どんな酒飲んだんだよって位、真っ白な顔してるし。削除した筈の動画を、こんなとこでハイビジョン顔負けの映像で見せられたのがよっぽど応えたみたい。テ―ブルでは、当然それ以上会話が弾む訳も無く、他のテ―ブルのおじ様達が歌うカラオケを静か―に聴きながら、待つ事四十分。一旦席を立って、店の隅っこで電話に出た塚本が、そのまま店を出て行った。まさか、逃げ出すような事は無いだろうと思いながらも、一応あたしも裏口から後を追う。表に出ると、スマホを耳に当てて此方《こちら》に背を剥向けた塚本が、駐車場の角に立っているのが見えた。ホッとDカップの胸を撫で下ろすあたし。…誇張。
塚本の腰の辺りで、あの日と同じシルバ―のウォレットチェ―ンが、外灯の光を鈍く跳ね返していた。チェ―ンに並ぶ銀の粒の一つ一つが、髑髏の顔だと見分けられる程度まで近付いた時、いきなり後ろから強い力で抱き止められた。
「うぁっ…」──顔に何かハンカチのような物が触れて息苦しさを感じた直後、ブレ―カ―が跳んだみたいに、光と音とあたしが消えた。
──午後7時45分。
みゆママに選んで貰ったドレスに身を包んだあたしと優は、店で働く女の人達の前で、口紅よりも赤い顔して自己紹介中だった。転校生とはこんな気分なのだろうか。挨拶も済んで、頻り《しきり》にミニスカ―トの裾を気にする優の横で手持ち無沙汰にしていると、みゆママと眼が合って、その眼で呼ばれた。
「大丈夫?はなみ」
「大丈夫。ごめんね、無理言っちゃって」
「何言ってんの、そんな事は気にしなくていいんだよ。でも、本当に大丈夫なのかい?何かあったらあたし、きむ爺と一樹に会わせる顔が無いんだからね」
「いや、そんな事…、我が儘言ってんのはあたし達の方だし」
「無理はすんじゃないよ、いいね」
「うん。ありがとう」
ウインクで答えたみゆママが、「さあ、今日も稼ぐわよ」と威勢のいい声を揚げる。その声に応えるように、店の彼方此方《あちらこちら》から音《E・D・M》が響き出した。
8時の開店とほぼ同時にお客さんが入って来る。10分と空けずに又一組。あたしと優、アマチュア二人を残して、みゆを含めた六人は、それぞれが勝手にテキパキと捌け《はけ》ていく。そこからの一時間、あたしと優は氷を運んだり、おしぼりを持っていったりと、只管《ひたすら》、雑用全般を引き受けて、なんとか間を持たせたのだった。
9時を15分程過ぎた頃、入口に数人の男達が姿を見せた。その内のひとり、みゆママが席を立って相手をしている男の腰には、あのウォレットチェ―ン。その場を離れたみゆママが、他のお客さんの相手をしているみゆの耳元に顔を近付けて、二言三言囁いた。
頷いたみゆが、一番奥のボックス席に塚本達を案内して行く。
グラスを洗う手を止めて、優があたしに顔を向ける。あたしも目を合わせて軽く頷いた。──出番だ。蹲んで《しゃがんで》化粧を直し始めた優を置いて、あたしはトイレに足を向ける。化粧台の前、鏡に映った自分を相手に二度三度と深呼吸していると、ドアの外にみゆママの声がした。
「はなみ、どう?行ける?」
「大丈夫」答えて、ドアを開く。「行って来る」
みゆママが黙ったまま、片方の眉を上げて答えを返した。
あたしがテ―ブルに着くと、既に塚本と指輪野郎の間に座った優が、寛《くつろ》いだ様子で煙草を吹かしていた。いざとなれば流石に双葉のツレである。肝が座っていらっしゃいます。男達は皆一様に、身に付けている物はそれなりにお金が掛かっていそうだけど、どこかチグハグな感じのする似たよな雰囲気の六人だった。
塚本を優と挟むように座る。
──さて、先ず《まず》は何から話そう。
……あれ、え―と…。何か話さなきゃと思う気持ちと裏腹に、何に対する緊張感なのか、上手いこと言葉が出て来ない。どうしたんだろ、あたし。焦るな、落ち着いてなどと自分に言い聞かせては見るものの、会話の切っ掛けさえも掴めないまま、只、時間だけが過ぎて行く。……どうしよ…どうする?
塚本の向こう側では、優がもう指輪野郎にタブレットの画面を向けていた。
「何人《なにじん》?」
「?」掛けられた言葉の意味が分からなくて、無言で隣に座る塚本の顔を見詰め返す。
「何人《なにじん》?……って、あ―これも通じねえのか」
……、……、……、「あ」──理解した。
そりゃそ―だ。席に着いて約10分、一言も話さずにチャイナドレスを着て座ってる女が居たら、誰でも聞いてみたくなる。其処《そこ》で出たのが「何人《なにじん》?」
「…日本人です」
店の中が薄暗くて助かった。明るかったら恥ずかし過ぎて顔上げてらんなかったわ。
「何だよ、日本人かよ。だったら早く何か喋れって。超―気まずかったつ―の」
塚本はそう言って笑いながら、今度は足の先から視線を上げて来て、あたしの顔を覗き込んだ。
するとそのまま、これと言って表情も変えずにグラスに手を伸ばす。
──あれっ?気が付かないのかな?
口から離したグラスを、多分作れって事なんだろうけど、黙ってあたしの方に押し出してくる塚本。お前も何か喋れつ―の。
でも、何であたしに気が付かないんだろう?まさかの別人?ウォレットチェ―ンも、もしかしたらあたしの見間違い?
受け取ったグラスに氷を入れながら、忙し《せわし》なく考えを巡らす。
──とここで、本日二回目の「あ」。作った飲み物を塚本に押し付けるように渡してから、「ちょっと失礼します」と断って、あたしは席を立った。
早足でトイレに向かう。ドアを閉めると、鏡の中から此方《こっち》を睨むブサイクに口には出さず毒づいた。バカ!バカ!顔を見せて反応を見ようってのに、こんな厚化粧してたら意味無いじゃん。只《ただ》でさえ化粧する度、どちら様ですか?ってからかわれてんのに…。バカ、本当にバカなのかお前。雑に化粧を落として顔を洗うと、うちの店に出る時と同じ様に眉だけ描いて、テ―ブルに戻った。これであの日、堤防で打つかった時のあたしになった筈。
塚本が煙草を咥えるタイミングでライタ―に火を点ける。「サンキュ―」と煙草の先をライタ―に近付けながら、序で《ついで》にと言った感じで、横目であたしを盗み見る。
「!」。やばっ、笑いそう。だってコントみたいな二度見。吹き出しそうになるのを必死で堪えて、顔を固めるあたし。その顔のまま聞いてみた。
「どうかしました?」
「いや…別に…」と答えてから、遠くを見る様に塚本が目を細める。見た事あるような気はするけど、何処《どこ》で見たのかまでは思い出せないって、そんな感じか?よし、んじゃ次は…と考えてたら、突然、優の横で喚声が上がった。
「ふざけんなっ!何だよこれ!」
大声の出どころは指輪野郎。血走った目が、優の持つタブレットの画面に釘付けになっている。──ビンゴ!
反対側からタブレットを覗き込んだ塚本が、口と目を一杯に開いて動きを止めた。
数秒置いて、電気で痺れたみたいにビクッと体を震わせると、スロ―モ―ションみたいにゆっくりとした動作で振り返って、まじゝとあたしを見詰めてくる。その顔には、もう答えが出ていた。──こっちもビンゴ!
後はもう、塚本に話が有るから公園で待っていると伝えれば、あたしの店での役目は終わりだ。顔を向けた優にひとつ頷くと、席を立った塚本の後に続いて、トイレへと向かう。ドアの前、あたしはおしぼり片手に、出て来る塚本を待った。──ドアを開けた塚本が、お化けでも見たよな顔して奇妙な声を上げる。ほぼ素っぴんだしねって…おい!ちょっと驚き過ぎだろ。内心の憤り《いきどおり》を押さえて、あたしは予め《あらかじめ》用意しておいた台詞《セリフ》を口にした。
「あたしの事覚えてる?…もし覚えてたらちょっと話が有るから、このあと菖蒲沼公園に来て欲しいんだけど」
「あん、な、なに言ってんだ…お前の事なんて知らね―よ」
うわっ、むかつく。双葉には公園で待ってるって事だけ話せって言われたけど、この期に及んでまだ惚ける《とぼける》って…。男らしく無いのにも程があるし、野暮ったいったらありゃしない。
なんだか無性に腹立って来た。
「あたしは覚えてる!四件目の火事があった夜、堤防の上で打つかった事。そのウォレットチェ―ン、あの時も付けてたでしょ。一緒に居たもう一人の顔だって、あたしちゃんと覚えてるんだから!」
はったり八分《はちぶ》…でもなんか、我慢出来なかった。
あたしの言葉を受けて顔を歪めた塚本が、おなかでも痛くしたみたいに躰を曲げる。暫く《しばらく》俯いた《うつむいた》ままで口も利《き》かない。自分が放った言葉の与えたダメ―ジを量りかねて、あたしも次に繋げる言葉を選べないでいる。
「……った」えっ?何?「分かった。公園には行く。…だけど、もう少しだけ待ってくれ。遅れて来る仲間が居て、もう一時間位したら来ると思うから…。それからでもいいだろ?」
双葉にはメ―ルするとして、最初は店が終わる迄待つ事も覚悟してたんだから、一時間位なら問題は無い筈だと、あたしは勝手に見当を付けた。
「分かった。じゃあ、あたし達もここで待つ」
テ―ブルに戻った塚本はすっかり落ち着きを無くして、忙しくスマホを擦り《こすり》始めた。何度も擦ってる内に、スマホの中からこのピンチを救ってくれる魔神でも出て来んなら、是非あたしにもその機種教えて欲しい処だけど。ま、こんだけ焦ってりゃ、公園に行かなくても、俺が犯人ですって認めてるようなもんだけどね。
優の横で指輪野郎も、どんな酒飲んだんだよって位、真っ白な顔してるし。削除した筈の動画を、こんなとこでハイビジョン顔負けの映像で見せられたのがよっぽど応えたみたい。テ―ブルでは、当然それ以上会話が弾む訳も無く、他のテ―ブルのおじ様達が歌うカラオケを静か―に聴きながら、待つ事四十分。一旦席を立って、店の隅っこで電話に出た塚本が、そのまま店を出て行った。まさか、逃げ出すような事は無いだろうと思いながらも、一応あたしも裏口から後を追う。表に出ると、スマホを耳に当てて此方《こちら》に背を剥向けた塚本が、駐車場の角に立っているのが見えた。ホッとDカップの胸を撫で下ろすあたし。…誇張。
塚本の腰の辺りで、あの日と同じシルバ―のウォレットチェ―ンが、外灯の光を鈍く跳ね返していた。チェ―ンに並ぶ銀の粒の一つ一つが、髑髏の顔だと見分けられる程度まで近付いた時、いきなり後ろから強い力で抱き止められた。
「うぁっ…」──顔に何かハンカチのような物が触れて息苦しさを感じた直後、ブレ―カ―が跳んだみたいに、光と音とあたしが消えた。