身代わりとして隣国の王弟殿下に嫁いだら、即バレしたのに処刑どころか溺愛されています
私の口を塞いでいるのは、よくドラマで見るような、クロロホルムを染み込ませたハンカチでもでもなければ、見目麗しい王子様の唇でもない。

真っ黒ですこし湿り気のある、大きな狼の鼻だ……と思う。
あまりにも近すぎて、その全容を確かめられないけれど、おそらく狼だ。

驚きで目を見開く私の顔中に、遠慮なく鼻を擦り付けると、まるで仕上げとでもいうように、ベロリと頬を舐め上げた。地味に痛い。

これが猫だったら、〝くすぐったいよ〟〝ザラザラだ〟なんて、微笑ましい戯れを繰り広げていただろう。


でも、目の前にいるのは狼だよ!?
しかも、かなり大きなサイズの。


慌てふためく私を、冷静にじっと見つめるエメラルドの瞳。

あれ?そういえば、この子……
森で見かけた時、怪我をしていたはず。


ガバリと体を起こすと、狼のピンとした両耳がピクリと動いた。それを見て〝可愛い〟なんて思わず呟くと、再び足元をペシッと叩かれてしまう。どうやらしっぽでやってるようだ。



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