潔癖女子の憂鬱~隣人は、だらしない男でした~
時計を確認すると、8時半が過ぎていた。

きっと譲も至急案件が入って、身動きが取れなかったのだろう。
水だけでここを占拠するのは忍びないと思った舞は、店員を呼んで食事を注文をした。

頼んだ“季節のオードブル盛り合わせ”と真鯛のムニエルのクリームソース、は、とても美味しかった。
季節のオードブルの中のエスカルゴなんて、きっと譲は『うわー、食べるお前の気持ちわかんねぇ」とか、言いそうだなと笑みをこぼす。

貴重なスーツ姿も見れなかった。それに、いつも前髪に隠れていて見えない顔を正式に見ることが出来るチャンスだったのに、見られなかったのはすごく残念だった。
でも、仕事ならしかたがない。
仕事を放って会いに来るなら、それはそれで幻滅だ。
これでよかったのだと、納得する。

「ラストオーダーですけど、何か頼みますか?」と、店員が声をかけてきた。

「あ、すみません。友達忙しくて来れなかったみたいです。1人で、この席を占領しちゃって申し訳なかったです」
「そんなのは、いいんですよ。でも、残念でしたね。またの機会にいらしてくださいね」

またの機会はきっとないだろう。譲との縁も、日曜日でおしまいだ。
その言葉を飲み込んだ舞は、「えぇ。ぜひ、また」と、微笑んだ。
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