潔癖女子の憂鬱~隣人は、だらしない男でした~
チリンッと、入口からベルの音がした。

席から立ち上がりながらドアへと視線を移す。すると、息を切らした三枝部長がお店に入ってきた。
店員に「待ち合わせしていたんだが」と声をかけ、キョロキョロと顔を動かしながらあたりを見回していた。

里崎や三枝に会うなんて、やっぱりこのビストロは人気なんだ。
譲さんにも食べさせたかったな、と思いながら入口へ向かう。

三枝部長は、汗かいてる姿も麗しい。
いつもビシッと髪の毛を後ろに流しているのに、今日は少し乱れているのも色っぽい。憧れの上司を前につい見惚れてしまう。
心の邪な思いを断ち切るように小さく息を吐き、「部長、おつかれさまです」と声をかけた。
青くなっていた顔を舞に向けてきた三枝は、驚いた顔を向けてきた。

「もうラストオーダー終わってますよ?」
「知ってる」

「じゃあ、待ち合わせですか? 奥にまだ人が残っていたと思います。では、私は失礼しますね。明日、また会社でよろしくお願いします」

レジに伝票を置き財布からお金を出そうとすると、制止された。

「ここは俺が」

え? と、目を丸くして、三枝を見つめる。

「そんな、私の食事を部長に支払わせるわけにはいきません」
「いいんだ。俺が払う」

そういうと、有無も言わさずに三枝は舞の食べた分の料金を支払ってしまった。
たまたま会った部下なのに、奢るなんてやっぱり人格者だと思う。憧れの部長は、行動もすごくスマートだ、と感心する。
譲が来なくて少し沈んだ気持ちが浮上するような気がした。

ーー最後に、ラッキーだった。

これなら、うだうだ考えずに夢見も良さそうな気すらしてくる。

後ろに他のお客さんが並んでいたため、急いで店を出ようとすると、三枝もそのままついて来た。
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