潔癖女子の憂鬱~隣人は、だらしない男でした~
ーーあ、お礼言わなきゃ。

「部長、ごちそうさまでした。お相手の方、待ってると思うので、お店に戻ってください」と、伝え、足早に帰ろうとすると、グイッと腕を引っ張られた。

驚いて、目をパチクリさせていると「……わからねぇのか?」と、三枝が舞に向かってぶっきらぼうに告げてきた。
部長のそんな口調を聞いたことが無かった舞は、口を開けたまま三枝を凝視する。

「ったく、几帳面で、周りをきちんと見て自分のテリトリー以外もフォローしながら仕事をこなしているくせに、抜けてんのな」
「ぶ、部長……何言ってるんですか?」

「あぁー、めんどくせぇー」
「めんどくさ……い?」

「こっち来い」と、手を引っ張られ薄暗いビルの陰へと連れて行かれた。
そして、綺麗にまとまっているオールバックの髪の毛を三枝はぐしゃぐしゃと手ぐしで無造作に掻き乱した。
舞は、急な部長の行動に驚いて止めに入る。

「急にどうしたんですか? えっと、さっき里崎さんが急な仕事だって部長に呼ばれて会社に戻ったんですけど、それが大変だったから部長怒ってるんですか? やっぱり私も手伝いに行けば良かったです。里崎さんも、行く時に愚痴ってましたし」

いつも冷静で優しい部長と、目の前の部長の態度がかけ離れていて一致しない。
面倒な仕事を部下に振られても、クライアントの無茶振りにも嫌な顔せずに対応している姿しか見ていなかった舞にとって、目の前の三枝は違う人のように思えた。

「私も、いつも迷惑をおかけしててすみません。出来るだけ、役に立とうとはしてるのですが……」

頭を下げ、謝る。
しかし、三枝の口から聞こえた言葉は意外なものだった。

「は? 里崎とメシ食ってたのかよ」

顔を上げた舞は、怪訝な表情を浮かべながら首を傾げる。
< 50 / 62 >

この作品をシェア

pagetop