潔癖女子の憂鬱~隣人は、だらしない男でした~
「えっと、里崎さんはご飯を食べてましたけど、私は飲み物だけです。あ、でもお店に悪いと思って、あとで食事を頼んで私も食べましたけど」
「一緒に食べたんじゃないんだな?」

念を押されるように聞かれた。

「はい。私は、待ち合わせしてましたし。結局、知り合いは来なかったんですけど。きっと、仕事で忙しかったんだと思います。忙しいって言ってた人だったんで」

寂しげな声で言いながら、視線を上げて三枝を見やる。
乱れた髪の毛が目に入りそうだ、と思った舞は、「部長、髪の毛」と言いながら伸ばそうとした手を止めた。

ーーえ?

まさか、そんなはずは無い。

嘘だ。嘘だ、嘘だ!

目をしばたいた舞は、伸ばそうとしていた手を引っ込めながら「ゆ、譲さん……?」と、呟く。

「俺の名前は?」
「さえ……ぐ、さ……ゆ、ずる……」
「あぁ、三枝譲。結城さんの上司だな」

いつも部長としか呼んでいなかったし、電話を取り次ぎするときも電話口のクライアントは『三枝部長いますか』だった。

「机の上に名札置いてたけど?」

確かにそうかもしれないけれど、そこまで目がいっていない。
だって、名札より部長の顔を見て鋭気を養っていたのだから。

ーーでも。

「だって、顔が違う……」
「顔? ずっと、前髪の下はこの顔だったが?」

前髪を掻き上げ、顔を近づけてきた。

「それに、部長はあんな汚い部屋に住んでるとか絶対ありえません」
「掃除していたお前が言うか?」

「いつもスーツもYシャツもパリッとしてたじゃないですか」
「日曜日にクリーニング回収しに行ってるだろ」

「でも、仕事も細かい部分をうるさいくらい指摘するじゃないですか。ズボラじゃ、そんなの」
「仕事だからな」
「そうですけど……」
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