潔癖女子の憂鬱~隣人は、だらしない男でした~
◆真実の代償
チラチラと時計を確認する。8時15分。
相変わらず会社に一番乗りだ。

出社してから舞は、机の上を何度拭いたかわからない。けれど、体を動かしていないと余計なことを考え出しそうで怖かった。

結局、昨日はベッドの上で眠れないまま朝を迎えた。

クマを隠すために、いつもより多めにコンシーラーを使った。
これで睡眠不足を隠し切れるとは思っていないけれど、譲の席から舞を見てもわからない程度に隠せているはずだ。

ーーあっ、そうだ。

パソコンのディスプレイを動かし、譲が視界に入らないように調整する。
いつもなら盗み見が出来るように調整をしているのに、今は視界に入れたくない。自分の気持ちもすべて見透かされそうで怖いのだ。
急いでセッティングし直していると、「っはよー!」と、里崎が出社してきた。

「おはようございます」
「昨日楽しかった?」

一瞬何のことか分からず返事が出来ずにいると、「ん? 友達とご飯だったんでしょ」と、里崎は不思議そうな表情で聞いてきた。

「あ、あぁ。そうだったんですけど、あのあと仕事でトラブルがあったってドタキャンされちゃったんです」
「うわ、それは残念だったね」

眉根を寄せながら、机に鞄を置いた里崎は椅子に座った。

「俺もさー、部長に呼び出されたじゃん?」
「至急案件だったんですよね」

「いや、そうじゃなくてさー。今日の会議の資料作りが間に合わないとかで、俺が駆り出されたんだよ」

どういうことだろう。
いつもなら資料作りも一人で完璧にこなして、部下を呼び出して何かを頼むことはなかったはずだ。

「え? いつもそんなことないですよね?」

率直な疑問を投げかける。

「どうしても外せない用事があったらしくてさ、手伝って欲しかったみたい。いつも俺のフォローしてくれてるし、全然いいんだけどさ。あれ、デートかな。あ、部長に限って女の人のためとかないか」

ーーまさか、私のために里崎さんを呼び出してまで?

そんなことはない、と思い直す。

自惚れたらダメだ。
自分の気持ちが膨れ上がる前に距離を取るって先週決めたばかりだ。
それに、上司と知ったら気軽に付き合うわけにはいかない。
里崎の言葉に「そんなことあるわけないですよ」と、曖昧に笑いながら受け流す。
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