潔癖女子の憂鬱~隣人は、だらしない男でした~
「随分、朝から楽しそうだな。おはよう」

里崎の肩に手を置いた譲は、舞の方へ向いてニコリと笑った。

「お、おはようございます」

譲の目を見た瞬間、心の中まで見透かされそうな気がした舞は、すぐに視線を外す。

「里崎、昨日はありがとうな」
「困った時はいつだって頼って下さい。部長は、昨日なんの用事だったんですか?まさか、デート? って、さっき結城ちゃんと話してたんです」

ち、ちょっと、待って。里崎さん、何言ってんの。

譲と待ち合わせしていた相手は舞だ。そもそも部長が譲と知ったのは昨日だったけれど。
この場から消えてしまいたい。
居た堪れない気持ちのまま、里崎に悟られないように気をつけながら口を開く。

「ぶ、部長はデートじゃないですよね? 多分、家に帰りたかったんじゃないですか。いつもお疲れですし」
「なんで、結城さんが俺がデートじゃないって言い切れるんだ?」

「そうだよ。デートかもしんないじゃん。部長だって彼女いてもおかしくないんだし」

里崎も譲の言葉に同調する。

「それはそうかもしれませんけど……」

語尾が小さく尻つぼみになる。
チラリと譲の顔を見やると、口の端だけ上げて笑っている。

「あ、わかった。結城ちゃん寂しいんでしょ。部長までデートとかいって、デートしたいの? なんなら、俺とデートしようか? 昨日さ、本当は一緒にお酒飲みたいなって思ってたんだよね」

そう言うと、里崎はスケジュール帳を出し確認をし出す。

「あ、金曜日どう? 接待もないし、仕事も早く終わらせるしさ」
「えっ? 里崎さん、私と一緒にお酒飲んでも楽しく無いですって」

「大丈夫だってば。俺、結城ちゃんのこと気に入ってるって言ったじゃん。いつもチョコ忍ばせてるほどなんだから」
「へぇー……」

少し不機嫌なオーラをまとった低い声が聞こえてきた。

「里崎は暇なのか、じゃあ今週は俺の補佐でこき使わせてもらうかな」
「え? 部長、マジっすか?」

「さっき、困った時はいつでも頼って下さいって言ってただろう?」
「それとこれとは……」

「決まりな。ほら、もう始業時間だ。仕事するぞ。里崎、あとで俺のところに来い」

そう告げると、譲は自分の席へ戻っていった。

隣の里崎を見ると、肩を落とし深いため息を吐きながら「あんなこと言うんじゃなかった」と、後悔しているようだった。
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