ロゼリアの黒い鳥


「さぁ、お嬢様、今度はこのドレスを着ましょうね」

 下着とコルセットを身に着けたロゼリアにそう言うと、彼女はにこりと微笑んだ。

「きれい」

 子どものように舌ったらずに感嘆の言葉を述べると、ゆっくりとドレスに手を伸ばした。ドレスに到達する前に、彼女の手をデボラが捕らえる。破かれたり汚されたりすることを恐れたのだろう。

 少し離れたところに導いて、ロゼリアを立たせた。

「ドレスを着たら、そのあとお直しをしますので少しの間ジッとしていてくださいね」

 急に決まった結婚だったので、新たにドレスを見繕うこともできず、母の花嫁衣裳を着ることになった。

 もっと前に衣装を合わせて直しをするべきだったのだが、ここ数日ロゼリアの体調が思わしくなくベッドの上で昏々と寝ているときが多かったので、当日間に合わせですることになってしまった。

 急ごしらえではあるが、デボラの腕は確かなので問題ないだろう。
 問題はロゼリアがジッとしてくれるか、それだけだ。

「……黒い鳥、どこかへ行ってしまったのね」

 ところが、彼女は再び窓の外の黒い鳥に意識を奪われてしまったようで、微動だにせずただ窓の外をチャコールの瞳でじぃっと見つめていた。

 デボラやアリシアにされるがままに身体を動かすも、視線はずっと同じ方向に。

 黒い鳥がいなくなって、その横顔は少し寂しそうだった。


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