ロゼリアの黒い鳥
もう少しで、主人の待つサロンに辿り着くというときだった。
突然、サロンからけたたましい音が響き、二人は足を止める。そのまま先に進もうとしていたロゼリアの身体を引き留めて、アリシアは彼女を守るように身を竦めた。
「……な、なに?」
デボラも動揺の色を見せている。
ガラスが割れる音、何かがぶつかる音、――そして悲鳴。
男性の悲鳴はもしかして主人のものだろうか。ロゼリアの父が誰かしらの襲撃を受けている? 賊が押し入ってきたのだろうかと、緊張を高まらせた。
「……部屋に一旦戻りましょう」
サロンの中で何が起こっているかは分からない。
けれども、尋常ではないことは確かだ。
そんな中にロゼリアを連れてはいけないし、自分も突っ込んでいくのは怖かった。
アリシアは一目散にデボラの提案に頷き、ロゼリアに戻る旨を伝える。
踵を返し、サロンに背を向けた瞬間、断末魔が聞こえてきた。
この世のものとは思えないほどの恐ろしい悲鳴。まるで家畜の鳴き声かと思えるほどに醜い声は、アリシアの耳を劈き、この心臓を凍り付かせた。
そのあとも、何度も何度も何かに押し潰されたような声が聞こえてくる。
急いでこの場から去ろうと足を動かしているのに、それでもこの耳に届くほどの大きな音。
アリシアの顔は色をなくしていた。デボラも同じだった。