ロゼリアの黒い鳥
「――こんにちは」
隣でロゼリアが男に声をかけた。
それにアリシアが肩を震わせて目を見開く。
(刺激しないで!)
下手にこちらが動けば、男を刺激して襲われるかもしれない。獣と同じだ。こちらが何かしなければ、あちらも動かないかもしれない。
……などというのは希望的観測過ぎるだろう。
相手は獣じゃない、人間だ。いや、本当に悪魔かも。
男が口端を上げて、にたりと笑う。
ちらりと見えた白い歯と、柘榴のように真っ赤な舌が見えて悟った。
――あぁ、やはり殺されてしまうのだ。
アリシアは一瞬、自分の人生を諦めた。
「こんにちは」
ところが、男は手を振り上げるでもなく、穏やかに挨拶を返してきた。
アリシアではなく、ロゼリアに。
まるで、道端でばったり会った知り合いかのように、優しい声で。
いまいま、人を殺してきた人とは思えない、慈しむような目を向けて。
そして一歩前に進み出て、ロゼリアに近づいた。
アリシアはそれをただ見ていることしかできない。