ロゼリアの黒い鳥


 これはケダモノの血だ。

 長年ロゼリアを苦しめ、そして男を地獄に叩き落とした。道理にもとることを平然とした顔でやってみせる畜生。

 あいつの残滓が彼女を穢したままであるのは我慢ならなかった。

「……ねぇ、黒い鳥はどこにいったのかしら」
「どこかな? あとで一緒に探してみよう」

 そう答えると、ロゼリアはニコリと微笑んだ。

「あなた、だぁれ?」

 答えたことでようやく男を自分の世界の中に認めたのか、首を傾げながら聞いてきた。
 男は一瞬眉根を寄せて、そして同じように微笑んだ。

「初めまして、ロゼリア。俺はギデオンだ」
「ギデオン?」
「そう、ギデオン」

 自分の名前を復唱してくれたことが嬉しくてもう一度名乗る。ロゼリアは少し俯いて、『名前……』と小さく呟いた。

「あの黒い鳥も名前があったのかしら。聞いておけばよかったわ」

 ギデオンはそれに寂しそうに『そうだな』と答える。

 彼女の世界から再び弾き飛ばされて、胸の中にもどかしさが渦巻いた。


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