ロゼリアの黒い鳥
それでも、五年という時を経てでも、元に戻れなくともロゼリアを手に入れたかった。
そのためにギデオンは舞い戻ってきた。
「……ここ、傷が残ってしまったんだな」
右肩に薄っすらと見える傷。
これはあのときについたものだろう。
ロゼリアの肩から赤い血が流れたのを見て、ギデオンは取り乱した。そして己の無力さを思い知ったのだ。
今でも覚えている。
腹の底に煮えたぎるような業火に焼かれた怒りも、不条理さに対する憎しみも。
堪らず傷痕に唇を落とすと、ロゼリアは『んっ』と小さく呻いた。
「もう大丈夫だ、ロゼリア。君を苦しめる人はもういない。――俺たちを引き離そうとする奴も、皆。俺たちだけしかいない」
肩口に頬を寄せて、彼女を抱き締める。
水面が揺れる音がして、それが浴室に響いた。
本当に二人だけ。邪魔者も、ロゼリアを売り飛ばそうとする人も、ギデオンを殺す人もいない。
今度こそ離れたくないのだと訴えるように、強く、強く抱き締める。