ロゼリアの黒い鳥


 ――カイムは悪魔だ。

 比喩ではない。正真正銘の悪魔。
 人間の願いを叶える代わりに、その人間が一番大切に思っているものを奪っていく。

 この古の悪魔が、ロゼリアの父に嬲り殺されたギデオンを願いによって生き返らせて、その対価として彼女の記憶を奪い、その心までもを壊した。

 ロゼリアがこうなってしまったのは、ギデオンのためにその身を捧げたからだ。
 彼女の献身で、生き返ることができた。

 生き返らせるといっても杜撰なもので、致命傷になった傷だけを治してあとはそのままだったために、甦ったと同時にギデオンは壮絶な痛みと苦しみにのた打ち回った。

 そしてその苦痛に耐えきれずにこと切れると、またカイムはギデオンを蘇生させる。
 また、同じように地に這いつくばって悶え続ける様子を見つめ続けた。

 それこそ、愉悦の笑みを浮かべて。

 いっそのことこのまま死なせてくれた方がいいと何度も思った。

 しゃがみ込んで苦痛に顔を歪ませ涙と涎を垂らすギデオンを見て、まるで喜劇でも見ているかのように笑い転げるカイムの首をへし折りたいと願った。

 それでも地獄のような日々を乗り越え、一年かけて身体を治し、四年かけて復讐のために己の地盤を固めたのは、すべてロゼリアのためだ。

 ギデオンのためにすべてを投げ打ってくれた彼女を父親の檻から解放し、そしてもう一度この腕に抱き締めるため。

 そのために血反吐を吐き、地べたを這いずり回りながら、カイムの笑い声に必死に耐えた。

「楽しかったよ。最高の見世物だったな、君たちの苦しむ姿は」
「悪魔が」


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