ロゼリアの黒い鳥
ロゼリアの父親の恐怖に満ちた顔。突然の襲撃に怯え、目の前に立つギデオンを震え上がりながら見つめていた。無様にも涙を流して命乞いをして、涎を垂らしながら『死にたくない』と訴えかけていた醜い様。
五年前、自分も同じだった。
まだ十三歳だったギデオンも、『ごめんなさい』『許してください』と何度も言ったのに、あの男は決して許さず、逆に楽しそうに顔を歪めた。
『虫けらを潰して何が悪い』
そう言って、奴は幼いギデオンの頭をかち割った。もう長時間暴行を受けて全身の骨が砕けて虫の息だというのに、追い打ちをかけるように渾身の力を込めて鉄の棒を脳天に振り下ろしたのだ。
慈悲も人としての心もない仕打ちをこの男から受けたことを、忘れるわけがない。許せるはずもなかった。
だから、どうだったと聞かれたら、答えはひとつだ。
「爽快だった」
紛れもない本心だ。カイムもまた、こんな返事を期待していたのだろう。
人間めいた感情は、あのときロゼリアの父親に殺されて地獄の業火で焼いてきた。一度甦った者に、慈悲も道徳心も何もない。
ただ失ったものを取り戻す。そのためだけに動く亡者だ。