ロゼリアの黒い鳥
「口を閉ざして、言われたことをこなしな。もしもこの結婚に文句があると旦那様に知られれば、どうなるか分からない」
衣装箱の上蓋を開けて、中から純白のドレスを取り出す。スカートのドレープが綺麗に揺れて、まるで久方ぶりに外に出られたことを喜んでいるよう。
けれどもアリシアにはこの真っ白なドレスが喪服に見えた。この白がすぐさま薄汚い下衆たちの欲望に穢されてしまうと知っているからだ。
「――旦那様は悪魔のような方だ。血の繋がった娘に対してもこの仕打ち。ただの使用人の私たちなんか、虫けらのように潰してしまうだろうさ。何せ悪魔というヤツは、人が苦しむ姿をみるのが大好きだからね」
このたび、彼女を嫁にと望んだのは四十過ぎの豪商だそうだ。後妻を望み、そして娘を高く売りつけたかった主人がその話に食い付いた。
あのロゼリアでもいいのだと。
そういうのを好む人もいるってことだよ、と、デボラは吐き捨てるように言ったのを覚えている。きっと彼女もまた、この結婚話におぞましさを覚えた一人なのだろう。
けれども、自分たちはロゼリアにドレスを着せて、夫になるであろう豪商の男がお気に召すように精一杯着飾る。彼女の不幸な結婚の手助けをするのだ。
――まるで悪魔に魂を売ったような気分だ。