ロゼリアの黒い鳥
「でもさぁ、君、本当にこんなに壊れちゃったロゼリアを愛せるの? まともに話もできないし、返事もしないよ? 自分では何もできないし。まぁ、人形として愛でるのであればいいかもしれないけど」
「ロゼリアは人形じゃない。人間だ。……それに、どんな姿になろうとも、俺の愛は変わらない」
今だって愛している。
心を壊して、ギデオンのことがもう分からなくなったとしてもそれでも。
それすらも愛おしいと思えるほどに。
「一応言っておくけど、オレにロゼリアを戻してって言っても無理だよ。対価だからね。一度貰ったものは返せない」
「安心しろ。そんなつもりはない」
このままのロゼリアを愛する。それだけだ。
壊れてしまった女に、人間を捨てた男。
お似合いじゃないか。二人で共に堕ちてどこまでも。ただただ草も生えない道を歩く。
そんな毎日がいい。
そんな毎日を待ち望んで、五年間耐え忍んできた。
「病めるときも、また病めるときも~妻を愛し、敬い、そして慈しむことを誓いますか? だっけ? 人間の結婚の誓いの言葉」
「少し違うけどな」
正確には病めるときも健やかなるときもだが、おそらくわざとだろう。お前たちに健やかなるときなどこれからないだろう? という揶揄だ。
「人間は愚かだねぇ。そうやってすぐにできもしないことを口にする。人の縁や愛なんて一番脆くて不確かなものじゃないか。それに誓いを乗せるなんて、何でそんな愚かなことができるのか理解しがたいねぇ。悪魔が耳元で囁けば、あっという間に裏切るのにさぁ」
人間は弱い生き物だ。だから突き崩すのは容易い。
昔からいろんな人間たちと契約し、その醜さを見てきたカイムからすれば滑稽なのだろう。できもしないことを口にするなと。
ゆえにギデオンの言葉も嘘くさいと笑い飛ばす。
今は口でそう言っているが、本当にロゼリアを愛し抜けるのかと。
「悪魔のお前には分からないさ」
ギデオンは誰のことも信じない。己自身ですらも信じていない。
けれども、唯一ロゼリアのことだけは信じられるのだ。無性に、無償に。
純粋無垢で優しくて、柵の向こうから手を差し出してくれた彼女のすべてを信じている。疑う余地もないほどに、それこそ盲目的に。
だから、生涯彼女だけを愛していくのだと確信している。
そのために甦ってきたのだから。