ロゼリアの黒い鳥
「そろそろ出ようか、ロゼリア」
カイムと話をしていたせいで、お湯が少し温くなってしまった。
身体も十分温まったしもう十分だろうと、ロゼリアの濡れた前髪を掻き分ける。
愛おしさに思わず額に口づけを落とすと、彼女の目がかすかに揺れた。
心は壊れてしまったが、まったく反応を見せないわけではない。本当に人形になってしまったわけでも、空っぽになってしまったわけではないのだろう。
壊れたのであれば、少しずつ少しずつ治していけばいい。
それを唯一できるのが、ギデオンだけだ。
いや、ギデオンしか許されない。他の誰の手にもロゼリアを触れさせるものか。
ロゼリアを抱き上げて浴槽から出ると、身体を拭き、ローブに着替えさせる。そしてそのまま寝室へと運ぶと、彼女をベッドに降ろした。
チャコールの瞳がこちらを見上げ、そして不思議そうに瞬く。
そのあどけない顔が、昔の姿を彷彿とさせて胸が苦しかった。
「……ロゼリア」
ゆっくりと華奢な身体を後ろへと倒し、ベッドに沈める。ブルネットの湿った髪の毛が手に触れて、それをすくう。
もう待つことなどできなかった。
この髪の毛が乾くことも待てないほどに、ギデオンは焦れていた。
また奪われないように。そして、もしもカイムによって消されてしまった記憶の残滓がどこかに残っているであれば、それを揺さぶりたい。
揺さぶって、あの日々の欠片でも思い出してほしかった。
二人、柵越しに育んだ愛の日々を。