ロゼリアの黒い鳥
だが、今まで父に従順だったロゼリアが、ギデオンと話しているうちに自我が芽生え始めた。
こんなことをされて不快だった、本当はしたくない。
そんな自分の気持ちを吐露することができるようになった。ギデオンもまた、それを受け止めて慰めてもくれた。
父が紹介する脂下がった中年の男より、ギデオンの方がいい。
嫁ぐのであれば、彼のもとに行きたい。ロゼリアをただの着飾った人形として見る連中よりも、ロゼリアを人間らしくしてくれるギデオンと一緒にいたい。
生涯を共にするのは彼でなければならない。
ギデオンと会うたびに強くそう思うようになった。
あぁ、父はきっとこれを恐れたのだ。
外の人間がロゼリアに世界は広いのだと教え込むのを。父の言うことを聞くだけが人生ではない、己の道は己で歩いていいのだと気付かせてくれる誰かと出会うのを。
そして自らの意思を持ち、父に歯向かうことを覚えたロゼリアは、たしかに昔よりも人生を楽しんでいた。
父の意思に反することをすると思うと不安もあったが、同時に高揚感もあったし、言葉にできないほどの快感もあった。未来に希望というものも持てるようになったのだ。
いつか、ギデオンと手を取り合って屋敷を出る日を夢見る。
夢見ること自体許されなかったのに、ロゼリアは毎日願うようになった。
柵の隙間から手を差し出し、指を絡め合わせる。
でも、それだけでは物足りなくて、焦れて。
言葉にしなくても互いの気持ちは同じなのだと知りたくて、――二人は柵越しにキスをした。