ロゼリアの黒い鳥
ある日。
正気でいる時間と、自分を失う時間が半々ほどになった頃。
真夜中に呆然と天井を見ていたロゼリアの目の前に、黒い悪魔が現れた。
彼はカイムと名乗り、君の望みを叶えに来たよと無邪気に言って見せた。まぁ、その代わりに対価を貰うのだけれどね、と。
悪魔などいるとは思わなかったロゼリアは訝しんだが、それは一瞬のことだった。
もしもロゼリアの望みを本当に叶えてくれるのであれば、悪魔でもなんでもよかった。これがたとえお遊びで嘘だったとしても、嘘にしがみ付くのもありだと。
もしも魂が必要であるというのであれば、この心臓を差し出すつもりでもいた。
「ギデオンを生き返らせて。私の願いはそれ以外何もないわ。ギデオンの死をなかったことにできるのであれば、何だっていい」
それしかいらない。
ロゼリアの中にはギデオンしかなかった。
「生き返らせる、ね」
「できる?」
「あぁ、もちろんできるさ。オレは優秀な悪魔だからねぇ。でも、そのためには対価が必要だけど」
「いいわ。対価だろうがなんだろうが持っていって。……と言っても、ギデオンを失った私に価値のあるものが残っているかは分からないけど」
身体でも心でも、必要ならロゼリアごとすべてを持っていっていい。差し出せるものが少ない自分に、どこまでの価値があるか分からないがそれでもいいのであれば。
ロゼリアは必死にカイムに言い募り希う。
すると、悪魔はピッと人差し指をロゼリアの頭に向けてニタリと笑った。
「じゃあ、君が一番大切にしている、そのギデオンとの思い出のすべてをいただこう」