ロゼリアの黒い鳥
「きっと正気を保っていられたとしても、父にいいように利用されて男の慰みものになる人生が待っているだけ。それならば、いっそのこと心をなくしてしまった方がいい」
カイムは高揚感が止まらなかった。
人間の愚かしさというのは実に際限なくて、楽しませてくれる。
「ギデオンにも私のことを忘れてもらって、自分の道を歩んでほしいの。きっと、私に関わったら酷い目に遭う。また彼が傷つくところを……殺されるところを見たくはないわ。もう私たちは合わない方がいい。その方が彼も幸せになれる」
ギデオンはロゼリアの幸せを考えて何も奪わず、自分の命を放棄した。
ロゼリアはギデオンの幸せを考えて彼を生き返らせて、彼との繋がりを放棄した。
互いが互いを想うあまりに生じたすれ違い。
もちろん、カイムにはそれを話してすれ違いを解消させるなんて親切なことをする考えは一切ない。すれ違えばすれ違うほどに面白くなる。
互いの首を真綿で締め、苦しむのだ。
「だから、カイム、お願い。ギデオンが甦ったら伝えてほしいの。私のことは忘れて幸せになってほしいって」
「あぁ、分かった」
さぁ、これはいよいよ面白いショーになる。
契約の炎に対価を呑み込まれるロゼリアの姿を見ながら、カイムはほくそ笑んだ。