ロゼリアの黒い鳥


 ――ロゼリアは正気を失っている。

 日がな窓の外を見つめ、黒い鳥の話をし、そして子どものように微笑み、要領の得ない話をする。生活能力もなくし、誰かの手を借りないと生きてはいけない。食べ物も口に運んでやらないと食べようともしないほどに、何もできない人形のような状態だ。

 アリシアが屋敷にやってきたときにはすでにこの状態だった。

 デボラがやってきた五年前も同じ。
 いつから正気を失ったのかは分からない。

 けれども、デボラから聞いたことがある。

『私がくる直前に屋敷にいた使用人を全員クビにして総入れ替えしたみたいだから、もしかするとそのときに何かあったのかもねぇ』

 たとえば、ロゼリアが心を壊してしまうような衝撃的なことが。それを隠ぺいするために主人は使用人を入れ替えたのではないか。

 おのずとそんな推測が出てくる。

 だが、真実を知る人は主人とロゼリア以外誰もいない。
 怒りを買いたくないと真実を探ろうとする人間もいなかった。ただ、そこはかとない恐怖を胸の中に仕舞い込み、素知らぬ振りをして働くだけだ。


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