記念日はいつもバレンタイン
「で、なんか話あったんちゃうの?」
食べ終わったあと、俊兄ちゃんが訊いてきた。
 覚悟はできてる、はずやってんけど、いざとなると、途端に怖くなってしまった。

 もっと気まずくなったら、どうしよう……
 このまま、なんも言わずに別れた方が、普通の幼なじみとして、たまに再会できるかな、なんて弱気が顔を出してしまう。

 こら、気張りや、自分!

「あんなぁ、俊兄ちゃん……」
「ん?」
 やっぱりいざとなると……言葉が出てこうへん……どないしょ……
 わあ、そんな麗しい顔でじっと見つめんといて!
 余計、無理〜……

 俊兄ちゃんは机に肘をついて顎を乗せた姿勢で言った。
「なんや、じれったいな。なら、俺から言っていい?」
「へっ?」
「チョコくれんのかなって、ちょこっと期待しててんけど。バレンタインやし」

 チョコをちょこっとって。
 ダジャレ……なんかな?
 つっこまな、あかんとこ?
 いや、そんなことより……

「き、期待って?」
 俊兄ちゃんは、テーブルに乗り出してきて、ちょいちょいと手招きしてくる。
 なんやろ?
 わたしは俊兄ちゃんのできるだけ近くに顔を寄せた。
 彼は内緒話をするように、口に手を当てて、そして囁いた。

「好きやで、優奈」
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