私の好きな彼は私の親友が好きで



秘書から電話があった日も、薫さんが帰宅したのは、日付がとっくに
変わっていた。
流石に、私も何日も満足に食事も、睡眠も取っていなかったので
薫さんがベッドに入ってきた時には多分、夢の中を彷徨っていた。
夢の中で「ダメだよ。何があっても、ウサギさんを手放さないよ。」
そう夢で言われて、幸せな気持ちになった。
夢から醒めたくない。
それなのに無情にも朝はくる。
目覚めた時には、以前の様に真ん中で、私は完全に薫さんに
バックハグされていた。
抜け出そうにも、足が私のショートパンツから出ている足に
絡まっている。
首をずらして、寝顔を覗き込むと、やはり目の周りに薄っすら
疲れが滲み出ていて、連日のハードワークを物語っている。
その顔を見たら、動いて起こしてしまうのが憚れ、
動かないようにジーっと身体を硬くする。

そのうち、薫さんの息が首筋に掛かり、温かい大きな腕に抱きしめられている
事に安心して眠りに誘われる。

キュっと回された腕からの圧に意識が戻る・・
「おはよう」耳の傍で久々に聞く大好きな人の声にハッとする。
「おはようございます。」
「久々に、生美月と居られる・・」
「生美月って・・」
「俺がどれだけ寂しかったか知ってる?」
嘘・嘘・ウソ・・
身体が一瞬で硬くなるのが自分でも解る・・

「美月、今日は早く帰るから・・話をしよう・・」
「はい・・」

久々に迎えの車で2人で乗った時に、運転手さんが微笑んだように見えた。
そして、飯島コーポレーションから出る時に、警備員さんにも
「お久しぶりです。行ってらっしゃいませ」と笑顔を向けられた。

薫さん、何を話すつもりなんだろう・・
私は、怖いけれど八木沼さんが話していた事を聞こう。
それで、もし 他に居たら・・
その人よりも、私をスキになって貰えるように頑張る。
頑張って、頑張ってもダメだったら、その時に答えを出そう。
私は未だ23歳だ!やり直しが利く!
もう、亮介の時みたいに、自分を殺すのは止めよう。
好きになって貰えるように頑張ろう。
だって、私はあの腕の中で眠りたい。
あの腕に抱きしめられたい。
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