契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
「なにも難しいことじゃない。言ってごらん。……渚」

 低い声で名前を呼んで、和臣の手が渚の頬にそっと触れる。その感触に渚は身体を震わせる。同時に、得体の知れない危機感に襲れた。
 彼にこうされるのが嫌だとかそんな風には思わない。ただそこに踏み込んでしまえば自分の力だけでは引き返せない、そんな世界が目の前に広がっているような心地がした。
 彼は危険だ。
 なにもかもが初心者の渚が相手にしていい男性(ひと)ではない。
 もしまた恋をするならば彼みたいな人がいいと無邪気に思うだけで、本当にそれだけにしておかなくては……。

「できないなら、それらしくできるようにしてあげようか?」

 不穏な言葉を吐いて、和臣がニヤリと笑う。
 渚は目を見開いて、彼を見上げたまま微動だにできなかった。
 親指が、ゆっくりと移動を始める。そして少し開いた渚の唇に到達した。
 その時。
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