契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
「……それで、そうまでして君はなにをしたかったんだ?」

 まるで、ただ自由になりたかっただけじゃないんだろう?とでもいうような口ぶりに、渚は驚いて顔を上げる。そこには呆れるわけでも非難するわけでもない、瀬名の真っ直ぐな視線があった。
 渚は小さく息を吐いて、彼を見つめ返す。
 不思議な気分だった。
 今目の前にいる瀬名は、渚にとっては遠い遠い存在で、本来ならこんな風に話をすることすらなかったはずの人なのだ。
 そんな人にこれ以上自分の事情を話す必要などないと思う。
 話したところでなにかが変わるわけでもないのだから。
 それなのに、聞いてほしいと思う気持ちが心の中に芽生えるのを渚は感じていた。
 自分の突拍子もない計画を聞いても呆れたりバカにしたりすることなく、ただ静かな眼差しで話の続きを待っている目の前の彼に、最後まで話を聞いてもらいたい。
 もしかしたら話すことで、振り出しに戻ってしまった渚の計画の新たな糸口が見つかるかもしれないとすら思うくらいだった。
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