契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 さすがは瀬名先生、と渚は心の中で呟いた。
 きっと彼は普段の法律相談でもこんな風に相手の心の扉を開けているに違いない。こうやって、相談者が本当に求めていることを引き出しているのだろう。
 昔、父龍太郎が言っていた。
 弁護士は聞き上手でなくてはならないと。
 弁護士のもとへ来る者は皆一様に自分では解決できない問題を抱えている。
 心の中は不安が渦巻き、混乱している。たとえ相手が弁護士だとしても、胸の内をさらけ出すことに躊躇している人も少なくはない。
 その彼らから、なるべくたくさんの言葉と思いを引き出すことが、問題解決の第一歩なのだ。弁護士とは、人の話を聞く仕事なのだと。
 もちろん今は法律相談ではないのだから、ここで渚が言いたくありませんと言えばそれでもなんの問題もない。
 目の前の瀬名の眼差しの中にも声音にも強制をするような色はない。
 それでも……。
 渚は小さく深呼吸をして、ゆっくりと口を開いた。

「私、本当はお弁当屋をやりたいんです」

「お弁当屋?」

「はい。祖母がやっていたお弁当屋を継ぎたいんです。祖母が亡くなって閉めてから二年経ちますけど、人には譲らずそのままにしてあるんです。あそこを……、そのために調理師学校へ行こうと思っているんです。できれば次の四月から」
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