契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 和臣は立ち上がりかけたまま唖然として、ドアを見つめる。今自分が見たものが信じられなかった。 
 佐々木龍太郎は弁護士会の会長を務めたこともある、法曹界では知らない者はいないほどの人物だ。今は法廷に出ることは少なくなったとはいえ、その経験と見解を多くの者が求めている。
 その龍太郎が自分に向かって頭を下げるとは。
 それほど娘が大切なのだろう。
 そう思うと、和臣は早くも胸に罪悪感が広がってゆくのを感じていた。
 和臣にとって龍太郎はただの上司ではなく恩人と言える存在だった。
 和臣は地方で農家を営む両親のもとで次男として生を受けた。
 弁護士を目指して大学入学と同時に上京して、法科大学院在学中に外部講師をしていた龍太郎と出会ったのだ。
 当時の龍太郎は若い分、今よりも厳しかったと記憶している。
 一秒も気を抜けない講義、たくさんの課題。でもその分どの授業より有意義なものだった。
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