エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

「大切にされているんだな」
「っていうか、父は会社勤めが辛かったらしいです。のんびりした人なんですよね。あ、これ内緒って父に言われてるので聞かなかったことに」

 しー、と人差し指を立てて唇に当てると、彼は微笑んで「わかった」と頷いた。
 あと数メートルで、実家のドアを叩かねばならない。緊張して胸に手をあて深呼吸をする。大哉さんの方は、まったく気負った様子がない。

「なんで大哉さんの方が落ち着いてるんですか」
「殴られる覚悟は決めてあるから、それ以上悪いことにはならないだろうなと」
「それはないです。だってさっきも言ったけど本当にのんびりした人なんですよ」
「いや、そうだとしても、こういう時はやっぱり違うものだろう?」

 大哉さんは、そう言うけれど、私はやはり怒って殴る父は想像できない。

「まあ、あとはなるようになれだな」

 喫茶店の入り口の前に着く。クローズの札がかけられているが、鍵は開けてくれているはずだ。
 彼はきゅっとネクタイの結び目を握って整える。私も、ワンピースのスカート部分を軽く手で撫でつけてから、ドアを押し開く。
 コロン、コロン。
 子供の頃は毎日聞いていた、懐かしく優しいカウベルの音が響いた。


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