エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

「えっと、式とかはまだ考えてなくて……でも、こじんまりとしたのでいいからしたいな」

 後半は、ちらりと隣に座る大哉さんを見て言った。彼は、優しく目を細めて頷いた後、両親の方へ視線を向ける。

「準備もありますし、一年後くらいになるかと思います。ですが、お許しいただければ入籍は早めにと考えています」
「ああ、籍だけ先に入れておくってこと? いいんじゃないかしら。ねえ? お父さん」

 母の方はあっさりと言い、父はまた涙目である。その父に向かい、彼はもう一度頭を下げた。

「彼女が一時期体調を崩しておりました。別に暮らしていると、仕事の関係で忙しくあまり会えなくて、気付くこともできません」

 大哉さんの言葉に、父も母もそろって私を見た。

「そうなのか、雅」
「あんた、なにも言わないから! どこが悪かったの?」

 ふたりとも心配を隠さない様子で、私は慌てて顔を横に振った。

「大したことないの! ちょっと、精神的に参ってたりして、食欲がなくなって」
「そういやなんだか痩せたなって思ってたのよ! なにかあったらちゃんと相談しなさいって言ってるのに」

 母が怖い顔をしてそう言うけれど、相談する間もなく怒涛の流れで今ここにいるんです、とはちょっと言い難い。

「せめて一緒に暮らしていれば、忙しい中でも顔を見られる日が増えます。どうかお許しいただけないでしょうか」

 最後の許可は、母は口出ししなかった。父は、今度は泣き顔ではなく、難しい顔をしてなぜか私の方を見た。私はつい、祈るように両手を組み合わせて父を見つめる。

 おそらく、一分も経たない。だけど長く感じた数十秒後、父はふっと長いため息をついて言った。

「娘を、どうぞよろしくお願いします」


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