エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
「ごめんね、ひとり娘なのに、引き継がなくて」
それは、この庭も含めた喫茶店のことだ。私が継がなかったら、両親が辞める時に閉店するか、他の誰かの手に渡る。
祖父の代からやってきたのに、自分の代でそれをなくすのはやはり申し訳ない。だけど、進路を決める時に、両親が継ぐことなんて考えなくていいと言った。
私も、自分の職業として喫茶店、カフェ、というのはピンとこなかったし、商売をするような自信もなくて、普通の会社勤めを選択した。
後悔はしていないけれど、いつかなくなると思うと寂しさは募る。
今回の実家帰省が、自分たちの結婚のことだからこそ、だろうか。どうしても感傷的な気持ちになる。
「別に継いでほしいなんて誰も思ってないわよ。本当はお義父さんの代で終わってたってよかったんだから。ああ、でも」
「うん?」
「もし庭付きの家を買ったりするなら、モッコウバラをちょっと持っていきなさいな。挿し木をしたらいいわよ」
「ほんとに? その時は大事にする」
「お祖母ちゃんが喜ぶわ。あ。大哉さん来たわよ」
母の声で店の方を振り向くと、大哉さんがテラスから庭に下りてきているところだった。
「ふたりでのんびり、庭を見るなり部屋に行くなり、ゆっくりしなさい」
母がぽんと私の肩を叩くと、大哉さんの方へ歩いていく。ひとことふたこと、言葉を交わした後、母は店の方へ戻っていった。
彼は、微笑みながら私の方へ歩いてくる。