エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

***
 
「じゃあね。これからすぐ行くんでしょう?」
 帰り際、母が店の前で見送ってくれている。父は、明日の食材の仕入れに先ほど出かけて、今はいない。
 母の言葉に、大哉さんはにこやかに答えている。

「はい。今日を逃したら、平日に行ける日はそうないですし」

 なんの話をしているかというと、役所に私の戸籍謄本を取りに行く話である。そして今、私のバッグの中には、私たちふたりと証人の欄には両親の署名が書かれた婚姻届が入っている。これで、いつでも提出できる。

 あの後、庭から戻ると母がいきなり言ったのだ。

『早くに婚姻届出したいなら、今日は持ってきてないの? 証人の欄、私たちが書くけど。あ、大哉さんのご両親が書かれるかしら』

 それはまだ、と私が言う前に、彼が自分のバッグから茶封筒を出してきた。中身は以前にダウンロードしてあった婚姻届だった。しかも、失敗用に五枚分入っていた。

『実は、お願いしたいと思っていました。うちは電話で話はしていますし、こだわる両親でもないので問題ありません。これからふたりで書くので証人のサインをお願いできるでしょうか』

 それで急遽、婚姻届記入大会が始まった……といっても、まずは本番に弱い私からと言われて三枚立て続けに失敗し、四枚目でやっと最後まで書き終えたら大哉さんも両親もノーミスだった。

 あんな大事な書類に記入するの、緊張するのに決まっているのに。どうして誰も失敗しないのか。
 だけど、和気あいあいとした楽しい雰囲気で、大哉さんもうれしそうに私の手元を覗き込んでいて、幸せな時間の中で書けてよかったとは思う。

 だからといって、すぐ提出するのはやっぱり急展開には違いないのだけど。大哉さんと一緒にいるようになってから、時々ジェットコースターのような気分を味わうことがある。

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