エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
複雑な気持ちで笑っていると、母が言った。
「なあに。変な顔して」
「ううん、なんでもないけど、色々スムーズに行き過ぎて、拍子抜けしたというか気が抜けたというか……」
すると、母は苦笑いをして腕を組む。そして大哉さんに視線を向けた。
「すぐに入籍して一緒に住みたいって彼が言ったときは、お父さんかなり苦悩してたけどね」
「えっ、そう? 確かに悩んではいたけど、そんなに長くはなかったよ?」
「そりゃ、雅が縋りつくみたいな目でお父さん見るんだもの。認めるしかないでしょうよ。本人が望んでるなら、私たちはそれ以上言うことはないし」
「えっ」
私はあの時、そんな顔をしてたんだろうか? 確かにとてもハラハラしていたけれど。
思い出すと、顔が熱くなって汗が滲み出てきた。隣の大哉さんからヒシヒシと視線を感じるけれど、きっと彼はうれしそうに笑っていそうだ。
「私もお父さんも、雅が元気で幸せでいてくれたら、それでいいのよ」
そう言った母の顔は、からかうでもなく穏やかに見守っていてくれるようなもので。決して簡単に決めたことではなかったけれど、私が幸せだと思えるならそれでいいのだと言ってくれたことは、少なからずこの選択を後押ししてくれた。
「……うん」
視線は母に向けたまま、隣にいる大哉さんの手を自分から掴んで繋いだ。
「幸せです。心配してくれてありがとう」
彼の指が、ぴくりと反応する。その後、強く握り返してくれた。