エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
未練
***

 婚姻届けを提出し、無事に高野雅になった。
 その日から、元のマンションには必要なものを取りに行くぐらいにしか帰っていない。足りないものは買い足して、不要なものは引き取り業者にお願いして近々引き払う予定だ。

 動きだしたら、あっという間に事は進んだ。
 総務課から、名字の変わった新しいIDカードをもらって、ついデスクでニヤニヤと笑ってしまう。
 すると、隣から稲盛さん……改め加藤さんが話しかけてくる。

「顔が緩んでるわよー、高野さん」
「だって、うれしくて……加藤さんもわかりますよね?」
「わかる。よくわかるよー」

 そう言う彼女の顔もやっぱり緩んでいる。彼女も同じように、名字が変わったところだからだ。

「いきなり結婚しましたって言うから、てっきり私と一緒でデキちゃったのかと思ったわ」
「それは違いますってば。でも色々考えて、先に入籍して追々結婚式をしようってことになって」

 正直、結婚した後が色々と面倒な手続きがあって大変だった。会社に報告はもちろん、運転免許証、銀行やクレジットカードなど、各所に連絡、書類を出さなければならない。
 最初は頭が混乱しそうになったけど、ひとつひとつ、高野姓のものが増えていくのはやっぱりうれしかった。

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