エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
にやける口元をどうにか引き締め、IDカードを引き出しに入れると気合をいれてパソコンに向かう。
「それにしても、高野さん、結婚したら仕事辞めるっていう選択肢はなかったの?」
「えっ⁉」
びっくりして手を止めた。
「だって、相手お医者さんでしょ? 収入は充分じゃない? 専業主婦もいいと思うけど」
「あー……なるほど」
彼女の指摘に、納得する。確かに、専業主婦という選択肢もある。だけど、私はそれは考えていなかった。
そんなに大きな収入はないし、しがない派遣の事務員だ。それでも、人と関わって働くのは嫌いじゃないし、大哉さんに全部寄りかかるよりはちゃんと自分の居場所も持っていたい。まだ始めたばかりの医療事務の勉強もあるし、ちゃんと資格が取れたら派遣会社にも相談してみるつもりだ。
大哉さんも、そのことには何も触れなかった。勉強をしているのも応援してくれているし、きっと私のしたいようにと思ってくれているんだろう。
「私は、やっぱり働いてたいです。邪魔にしないでくださいね」
冗談めかして言うと、加藤さんは「邪魔なわけないでしょ」と笑って言った。