エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

 くたくたに疲れていても食べやすいように、何がいいだろう。少しでもいいから、毎日ハードな仕事をこなす彼の、役に立ちたい。
 キッチンで水を飲みながら、スマホで夜食のレシピを検索する。

 期間は短いわりにできる限りの時間を一緒にいるようになって、いろんな彼の顔を見るようになった。その中で、やはり気になるのは彼の仕事のハードさだった。わかってはいたが、医者という仕事は体力勝負だなと改めて思う。

 先週は、緊急手術に急遽助手で入ることになったと疲れ果てて帰ってきた。事故の患者さんで内臓や血管の損傷が複数個所あり、正確に素早く縫合できる手が必要だったとかで大哉さんが呼ばれたのだ。
 何時間に及ぶ手術の後、どうにか一命は取り留めて、最初に診察をしたベテラン医師が主治医を引き受けてくれたと虚ろな目で話してくれた。

 難しい手術をした時は、神経をすり減らすようで病院から帰った途端に糸が切れたように頭が働かなくなるらしい。
 大変なお仕事だ。でも、家で脱力した時の大哉さんは、少しかわいい。いつもきちんとしているのに、ソファでぐったりと身体を預けて横になる。
 そして、普段甘やかしてばかりの私に、逆に甘えてくる。

 ――あれ、なんでだろう。不思議だなあ。

 同じように手を引かれて彼の腕の中に納まる時とそう変わらないのに、彼が甘える時とそうでない時となんとなく伝わる雰囲気が違う。
 ああ、そういえば、甘える時には頬擦りをされることが多いかもしれない。

 大哉さんのことを考えていれば、心が安らいだ。せっかく楽しくあちこちのレシピサイトを見て、今作れそうなものを探していたのに。
 手の中で一瞬スマホが震えて、ぎくりと指が止まる。

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