エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

「……もしもし」

 出てしまったものは仕方ない。深呼吸してからそう言うと、向こうもまさか本当に出るとは思っていなかったようだ。
 一瞬、戸惑ったような間が空いた後、返事があった。

《雅さん? 直樹の元カノの》
「そうですが、私はあなたの名前も知りません。まずは名乗るべきじゃないですか?」

 女性にしては少し低めの、ハスキーな声だ。もっとも、私の声も今はいつもよりかなり低い。緊張と、感情の昂りで震えてもいた。

《沢田と申します。お願いがあって、ご連絡させていただきました》

 私の態度に腹を立てたのか、打って変わって丁寧な口調になったが、内容は変わらず不躾なものだ。
 こういう時に、自分の頭の回転の遅さが嫌になる。うまく言いたいことがいえるだろうか、言われっぱなしにならないだろうか。
 気持ちを落ち着けようと、深呼吸を何度か繰り返した。

《私、今直樹と付き合ってるんです。だから、あなたとはもう連絡を取ってほしくなくて》
「お言葉ですが、連絡なんて取ってません」
《でも、直樹のスマホに履歴が残っていて》

 どうやら、彼女は伊東先生のスマホから私の連絡先を見たらしい。もちろん、黙って盗み見たのだろう。
 彼がこのところ私にかけていたのが、まさかこんな形で影響が来るなんて思いもしなかった。

「私からかけてもいないし、反応もしていません。そういうのも残ってないですか?」
《……消されたらわからないじゃない》


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