エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
「私に言われても困ります。それから、こんな風に電話をかけてこられるのは迷惑です。そちらのことはそちらで解決してください」
そもそも、この人は私に対して罪悪感とかそういうものはないのだろうか。こうやってかけてくるのは、同時進行だったことをわかっているからだ。
そんな思いが、きっと声に現れて相手に冷たい印象を与えたのだろう。数秒沈黙が続いたと思ったら、力のない声で返事があった。
《あなた、高野先生と一緒にいた子でしょ? 病院ですれ違った》
「すれ違った?」
その言葉で思い当たる節は一度しかない。産婦人科の診察を受けた時だ。それで「あっ」と思い出した。
帰り際、すれ違った人がいた。お疲れ様、と声をかけてきた人だ。あの時、大哉さんはなにも言わなかったけれど、きっと彼女だったのだろう。伊東先生と並んでいるのを見た時の記憶は、ショックのせいかイメージは残っているのに顔までははっきり覚えていない。
大哉さんは、私にわざわざ言うことでもないと判断したから、知らんふりをしていたのだ。
こんなことがなければ、私だって知りたくもなかった。
《高野先生の彼女を病院で見たって直樹に言ったら、なんだか様子がおかしくなった。不安になってスマホを見たら、やっぱり連絡を取ってて……それであなたが元カノじゃないかと思って》
話が、ようやく見えてきた。伊東先生は、やっぱり大哉さんのことを意識しているんだ。だから、私に未練があるように沢田さんには見えているけど実は違う。別れたあとに大哉さんと付き合ったのが、気に入らないのだ。そんな様子を見て、彼女は不安なのだろう。