エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

「……何度でも言いますけど、私はもうその気はありませんし、これからも私から接触しません。彼から連絡が来ても無視します」
《だったら、直樹の連絡先は着信拒否してください。それをしてないっていうことは》

 ここまでは、割と冷静に話ができていたと思う。大哉さんのためにも、伊東先生のことはもうなんとも思っていないのだとわかってもらいたい。毅然とした態度でそれを示すのが一番だと、わかっていたのに。

《あなたにも未練があるってことじゃないの?》

 そこで、感情を堰き止めていたものが、壊れた。
 ぶるぶると握りしめた拳が震える。あの日の惨めさを思い出して、それを彼女にぶつけたい衝動に襲われる。けれどそれを言うのは悔しかった。

 あの日、彼女とデートしているところに居合わせた。否応なく天秤にかかった状態で、あっけなく向こうに傾いたようなものだった。
 今はもう、平気だ。でも、あの時味わった気持ちはそう簡単には消えない。それなのに、未練があるんじゃないかなんて絶対に言われたくなかった。
 これ以上は、感情がセーブできそうになくて唇を噛みしめる。
 目を閉じてもう一度深呼吸をすると、これでこの問題を終わらせるつもりのセリフを言った。

「未練なんて欠片もありません。あなたが言うなら着信拒否の設定もします。その代わり、あなたも彼が二度と私に連絡してこないようにしてください。もう結婚もしました。迷惑なんです」

 早口でまくし立てて、向こうの返事は聞かずに通話を切る。腹立ちまぎれにスマホを投げてしまいそうになって、どうにかソファに放り出すだけでこらえた。

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