エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

「もしもし、大哉さん? お疲れ様です」

 多分、ワンコールくらいだったと思う。あまりに早くて、彼も驚いたのだろう。くすりと笑う声が聞こえてそれだけで私はホッと気が緩んだ。

《連絡が遅くなったな。待ってた?》
「大丈夫です。もうすぐ帰る?」

 帰ったら、話を聞いてほしい。
 しかし、残念ながらその願いは叶わなかった。

《……悪い。今日は泊まり込むことになった》
「え……あ、そうなんですか」
《先週の緊急オペの患者の容体が悪いんだ。主治医が連絡取れなくて、オペを手伝った俺が待機することになった》

 先週……というと、彼がクタクタになって帰ってきた時の患者さんだろうか。血管の手術は細やかな処置が必要で、大変な手術だったと聞いた。

「それは……じゃあ、仕方ないですね」

 心細さを隠して、そう言った。大事な患者さんがいるのだ。仕事中なのに、電話で心配をかけるようなことは避けなければ。

《雅? どうした?》

 私は、本当に隠し事が下手だ。それとも彼が敏感に察してくれているのだろうか。私の様子に気づいた彼が心配そうに声をかけてくれた。
 だから、今度はちゃんと努めて明るく言った。

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