エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける


 身支度をしてバッグを手に取ると、玄関で靴を履いている時に雨が降っていたことを思い出した。傘を肘にひっかけて、下駄箱の上にあるキーケースから家の鍵を取る。

 もしかしたら、途中で会えるかも。
 パン屋は駅の近くで、病院からの帰り道だ。なんだったら、パン屋の前で待っていれば落ち合って一緒に帰れるかもしれない。
 なるべく考えないようにしていたけれど、昨夜のこともあり早く彼に会いたくて、仕方がなかった。

 エレベーターの中で、大哉さんに駅前のパン屋に向かっていることをメッセージで送っておいた。この周辺にパン屋は二軒あるが、この時間から開いているのは家に近い方ではなく駅前のパン屋だった。通勤客もターゲットに入っているのだろう。毎朝七時から開店している。

 小雨が降る中、傘を差して早歩きで駅までの道を歩く。残念ながら、大哉さんはまだのようだった。
 お店に入ると、美味しそうなパンの匂いが充満していて急に空腹を感じた。

 どうしよう。食パンだけのつもりだったけど、いっぱい買っちゃおうかな。今日のお昼やおやつにしてもいいし。

 まだ早い時間だから、昼間よりは種類は少ないがそれでも迷うくらいに並んでいる。お店の中をうろうろとして、結局総菜パンとフルーツデニッシュをふたつずつに食パン一斤を買い、店を出た。


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