エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
まだ雨は降り続いていた。仕方なくバッグを傘を持つ手の肘にひっかけて、パンの入ったエコバッグは反対の手でぶら下げて歩く。
駅の正面まで来た時、病院のある方角をちらりと振り返った。彼を待とうと思ったが、やっぱり大人しく帰るべきだろうか。
朝から一緒に歩けたらいいと思って期待したが、どうやらタイミングが会いそうにない。
大哉さんから連絡が来ていないか確認しようと、荷物を全部肘にひっかけて傘を肩と首の間に挟む。どうにかしてスマホをバッグから取り出した。パン屋から帰るところだと送っておかなければ、後から来た彼が心配して探し回るかもしれない。
メッセージアプリを開こうとスマホを操作していて、私は傘の中にいて周囲は見えていなかった。
突然、スマホを持つ方の手首が横から出てきた手に掴まれてぐいっと持ち上げられる。
「えっ?」
「雅……」
驚いて、私の手を掴んだ相手の顔を仰ぎ見た。向こうも、驚いた顔で私を見下ろしている。往来で立ち止まった私たちは、お互いに固まった。
「……伊東先生?」
そう呼んだ私に、彼は一瞬眉根を寄せる。
「どうしてここに……」
思わず呟いたが、ここは病院の最寄り駅であり彼も利用する。電車もだし、周辺の店舗もだ。いつかは偶然会うこともあるだろうなとは思っていた。
「遠目でも、すぐわかった。傘も見たことあるやつだったし」
確かに、傘は以前から使っているやつだ。まさか、この何でもないドット柄の傘が目印になってしまうとは思わなかった。