エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
「……伊東先生、ね」
どうして、そんな不満そうな顔をするんだろう。
意味がわからなかった。二股して、挙句同じ場所に出くわしたら彼女の方を取ったのは伊東先生だ。
彼女には気付かれないようにごまかして、私のところに来てわざわざ嫌味と極太の釘を刺していった。
『お前ら付き合うの?』
『もしかして前から?』
私と大哉さんを見て、そう言った。つまり、それでもかまわないと思っていたということだ。寧ろ、都合がよかったんじゃないか。
切り出しづらかった別れ話の必要がなくなったから。
「今さら、伊東先生がどうしてそんな顔をするのかわかりません」
「俺は、まだ雅と別れるつもりじゃなかったんだよ」
そのセリフに、頭の中が途端に混乱した。
「えっ?」
疑問がそのまま声に出て、通り過ぎていく人がちらりと私たちを見る。このまま往来で立ち止まっているのは、周囲の迷惑になると思い道の端まで寄った。
「それは、あの時は彼女とは付き合ってなかったっていうことですか?」
半信半疑でそう尋ねる。すると、彼がまた気まずそうにして言葉を濁した。
「いや、それは」
その反応からするに、やっぱり沢田さんと彼はあの時すでに付き合っていたのだ。