エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

「やっぱりわからない……」

 雨脚が強くなり足元が濡れてきて、段々と自分の中が惨めな感情に支配されていく。

「……悪い。迷ってたんだ。でもあんな風に突然別れるつもりじゃなかった」

 ふっとため息を吐いてそう言った彼の表情は、苦いものを噛みしめているようだ。一方的に捨てるつもりじゃなかった、そう言いたいのだろうか。私のことはそれなりに、大事だったと言いにきたのか。
 だけど、少しも心に響かない。

 こんなことを言いたいがために、何度も連絡をしてきたのだろうか。大哉さんが私を騙しているというのも、私に話を聞かせるための手段だったのではないかと思えてくる。沢田さんを、あんな言動を取らせるほどに不安にさせてまで?

「なのに、お前が高野と一緒にいたりするから、カッとなってひどいこと言った」
「……よくわからないけど、ひどいことを言ったから、そのことに対しての謝罪ですか? さきほどの『悪い』は」

 このままでは、一方的に彼の言い分を聞き続けることになりそうだ。だから私は話を切り上げようと、口を挟む。
 思っていた私の反応と違ったのか、彼は一瞬言葉に詰まった様子だったが、私は構わず頭を下げた。

「わかりました。謝罪ということで受け取りましたので、これで失礼します」
「後悔したんだ! 雅のこともちゃんとするつもりだった」
「ちゃんとって……」

 そんなこと、私は望んでいない。

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