エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

「あんな風に傷つけるつもりじゃなかった! なのに高野が、入り込んでくるから!」
「あの、少し声を抑えて」

 感情が昂って声が大きくなる彼に焦って、慌てて宥める。土曜の朝は平日より人通りは少ないとはいえ、こんな往来で言い争っていては目立つし、病院関係者がいつ通るかもわからないのに。

 彼は、冷静さを見失っている。
 そのことに気が付くと、私の方は徐々に気持ちが落ち着いてきた。

 さっきから、彼が言っていることがよくわからなくて、いったいなにをしたいのか理解に苦しんでいたが、やっとわかった。
 わからない理由が。互いに重要だと思う論点が違うからかみ合わないのだ。

「あの……もし、己惚れだったら、ごめんなさい。誰かに取られたくない、と思うくらいには私のことを大事に思ってくれていた、そういう意味ですか?」

 本当は『誰か』ではなく『高野』なのだろうけれど、それを指摘すると伊東先生が逆上しそうで、敢えて言わなかった。サチが言っていた意味が今よくわかる。やっぱり伊東先生は『高野大哉』を強く意識しているのだ。だから、私が横から掠め取られたようで悔しい。

 私が尋ねると、彼はぱっと表情を明るくする。

「当たり前だろ!」
「彼女と天秤にかけて? 迷ってた?」
「そ、それは……悪かった。けど、そうだ。雅のこともちゃんと好きで、このままじゃいけないって俺だって思ってたのに」

 彼の一生懸命な言い訳を聞きながら、私は頭の中で、そうじゃない、違うの、と繰り返していた。
 さっきから彼が必死に主張している部分は、私にとってはもう、どうでもいいことだ。なのに、彼はそれに気付かない。

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