エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
――これ以上、今考えたらダメだ。
ぶるん、と思い切り顔を横に振った。一緒に嫌な疑心暗鬼も振り払う。伊東先生の言葉は、悪意に満ちている。悪い方にしか受け取れないようにわざと話している。
だから、今は考えることを放棄しようとした。
「聞きたくありません。帰る」
「ほんとのことだぞ。狼狽えるってことは、あの日のうちに口説き落とされたか? 身体で慰めてもらった?」
「やめてください! 変な言い方しないで!」
カッとなって思わず声を荒げてしまう。
あの夜、あの店にはどうやって行ったんだった? 私は知らない店だった。大哉さんが、確か、連れていってくれた。
あの時、彼はどんな顔をしていたっけ。
「なんだ図星か。お前も案外、尻が軽いな」
動揺したところに、ひどい言葉を投げかけられる。昨夜、沢田さんに投げつけられた言葉を思い出した。
『まだ未練があるんじゃないの?』
このふたりは、よく似ている。どうして、人の一番傷つく言葉をこうもうまく選ぶのだろう。